「自分がいなくなったあとも、家族は幸せに過ごしていってくれるだろうか」
お年を召すと、ついこんな不安が心をよぎることもあるのではないでしょうか。
長い人生を生きてこられたあなた。
その途中には数えきれない喜びがあったことでしょう。
一方で、喜びと同じくらいに辛いことや悲しいこともあったはずです。
それらを乗り越えてこられたのは、辛いことや悲しいことを分かち合えるご家族がいたからなのではないでしょうか。
だからこそ、ご自身の死を意識したとき、ご家族に思いを馳せるのはごく自然なことです。
のこされた者が幸せに過ごしてほしい。
そう願うのもまた、自然な流れなのではないでしょうか。
できれば、この思いを伝えておきたい。
そう願うこともまた、自然な流れなのかもしれませんね。
こうした思いをご家族に伝えることのできるのものが、遺言書です。
遺言書は、お金持ちのためのものと世間一般には思われているようです。
※実は、遺言書は必ずしもお金持ちのためのものではありません。
遺言書は、大切なご家族に思いを伝えるためのものです。
では、大切なご家族に思いを伝えることに、お金持ちである必要はあるでしょうか?
必要ではありませんよね。
遺言書は、誰もが使える、ご家族への思いを託せるものなのです。

私にも家族に伝えたい思いがある!
よし!遺言書をつくっておこう。
Mさんは、遺言書がご家族に思いを託せるものだということを知って、遺言書を作成しようと思い立ちました。
そう思い立ったのは、Mさん自身のご家族が複雑であることも関係しています。
MさんとMさんの妻Rさんには、お子さまAがいます。
MさんとRさんは互いにバツイチで、お互いに再婚した者どうしです。
最近になってMさんは、Rさんに前夫との間にできたお子さまBがいることを知りました。
Mさんは自分の子どもであるAを可愛がっています。しかし、Bに対しては正直、複雑です。
そんな気持ちが態度にでてしまったのか、AもBに対してあまり良い感情をもっていないようです。
Mさんは自分の死後も、奥様であるRさんに安心して暮らしていってほしいと思っていますし、AとBにも穏やかに過ごしてほしいと願っています。
その気持ちをRさん、そしてAとBにどう伝えれば良いのか。
そう悩んでいたところに、遺言書がご家族にご自身の思いを託せるものということを知ったのです。
はたしてMさんの思いは、遺言書によってうまく伝えられたのでしょうか?
この記事は、遺言書をのこしたほうがよいケースを、Mさんの思いに寄り添ってご紹介いたしました。
遺言書は、あなたの思いをご家族に伝えるために今できる準備

遺言書をのこす理由
遺言書はご家族にご自身の思いを託すものと申しました。
では、思いとはいっても、その思いとはいったいどんなものでしょうか?
ここが具体的にならないと、遺言書を作ろうという強い気持ちが起こらない気がします。
のこされた者が幸せに過ごしてほしい。
こう願うからこそ、遺言書を作ろうとするのは自然な流れと申しましたが、もう少し具体的に述べてみたいと思います。
「家族みんなが穏やかに過ごしてほしい」
遺言書がのこされる理由の大半は、ご家族の方皆様が、ご自身の死後も穏やかに過ごしてほしいと望まれるからです。
ただ我が国、全てのご家族全員の関係性が良いというわけではなく、なかには「家族全員が穏やかに」と望んでも、それが叶わないことがあります。
たとえば、生前から家族関係が複雑であったのだが、相続開始後、その家族関係が悪化し争族になってしまったというような場合です。
家族関係が複雑とは、どういうことでしょうか。
・両親が別居している
・再婚によって義理の兄弟が増えた
・離婚した相手との間に子どもがいる
・価値観等の違いで親子関係が疎遠、対立している
・養子として育てられたが、実親との関係も継続している
・高齢の親の介護を巡って、家族間で意見が対立している
具体例をあげるとこのようなケースがあるのではないでしょうか。
「離婚した相手との間に子どもがいる」というのはMさんと同様のケースですね。
Mさんのケースでは、いざ相続となった場合に次のようなトラブルが生じがちです。
・それまで顔をみせなかったAが相続を機に突然、金銭を要求してきた。
・Aになんど連絡をしても、遺産分割協議に参加してくれない。
生前からぎくしゃくしていた関係が、相続の開始によってトラブルが表面化してしまったのです。
このような場合には、遺言書をのこしておくことを検討されたほうがよろしいかもしれません。
なぜなら、遺言書がなければ、相続手続きは遺産分割協議という手続きに進みます。
この遺産分割協議が整わなければ、遺産分割調停、遺産分割審判と進みます。
このような相続手続きの長期化は、相続人の誰もが望むものではありません。
遺言書で財産の分配を明確にしておけば、少なくとも相続の長期化は避けられます。
「再婚した今の妻に、これからも安心して暮らしていってほしい」
「めったに会えないが、毎年手紙をくれていた息子を支援したい」
そういったお気持ちは、遺言書によってはじめて形にできます。
家族構成が複雑で自分の死後に不安があるなら、ご家族の「誰にどう財産を託したいのか」をあなた自身の言葉でのこしておかなければなりません。
あなた自身の言葉が示されることで、のこされたご家族は安心して“これから”を暮らしていけるのではないでしょうか。
これまで、のこされるご家族が安心して暮らしていけるために遺言書を作りましょう、ということを述べてきました。
しかし、これだけでは「遺言書はご家族がいる者のためのものなのか」とお思いになる方もいらっしゃるかもしれません。
いいえ、そうではありません。
身寄りがおられない、いわゆるおひとり様にも遺言書の作成をオススメしたい理由があります。
「誰かの未来に託したい」
「身よりも子どももいない」
「兄弟姉妹はいない」
兄弟姉妹はいるが「付き合いがほとんどない」
社会構造の変化・多様化による影響で、ご家族との関係が希薄な方は少なからずおられます。
お金の話で恐縮ですが、もし「ご自身の死後、相続人が誰もいない」となれば、その財産はどう扱われるのでしょうか?
もし遺言書がのこされていなければ、最終的にあなたの財産は国に引き継がれます。
「それがよい」とその選択をされるのにはなんの支障もありません。
それとは別に、「お世話になった方に譲りたい」「地域や社会に貢献したい」と、ヘルパーさんやご友人に贈与を、または地域の団体やNPOに寄付をすることもできます。
お世話になった方に贈与を、あるいは地域の団体やNPOに寄付をすることもできます。
たとえば…
- 介護を支えてくれたヘルパーさんへ感謝の気持ちを
- 長年通った地元の病院に寄付を
- 子ども支援を行っている団体に財産の一部を託す
あなたの人生で積み重ねてきた財産が、次の誰かの希望になる。そんな橋渡しができるのも、遺言書の大切な役割です。
事業や不動産がある場合 〜これまで築いたものを、これからにつなげる〜
「自分の代で終わらせたくない」
「この土地、この店を、あの子が引き継いでくれたら…」
そんな想いがある方にとって、遺言書はとても有効です。
特に、家業や商売をしている方は、事業承継がうまくいかないと、従業員の生活にも影響してしまいます。
また、不動産を複数所有している場合、きちんと方針をのこしておかないと、相続人同士で争いになったり、資産が中途半端に分割されてしまったりすることも。
「この建物は長男に任せよう」
「この土地は売却して、きょうだいで分けてほしい」
そんな明確なメッセージをのこすことで、あなたの築いてきたものが、家族の絆や未来につながっていきます。
特定の人に気持ちを伝えたいとき 〜ありがとうを形にして〜
「いつも気にかけてくれた娘に、少し多く残してあげたい」
「親族ではないけど、親身に寄り添ってくれたあの人に何か贈りたい」
そんな気持ちがある方は、遺言書にその思いを込めましょう。
法定相続だけでは、あなたの“ありがとう”は反映されません。
遺言書をのこすことで、特定の人に財産を遺贈したり、メッセージを伝えたりすることができます。
そして、その中に「付言事項(ふげんじこう)」として、あなたの想いを言葉で添えることもできます。
「生前はあまり口にできなかったけど、本当にありがとう」
「あなたのおかげで最後まで幸せでした」
そんな言葉こそ、残された人の心をあたたかく包むのではないでしょうか。
内縁のパートナーがいる場合 〜ともに過ごした人生への感謝を〜
籍を入れていないパートナーとは、法律上の配偶者ではないため、遺言書がなければ財産を受け取る権利がありません。
どれだけ長く共に暮らしても、法定相続の対象にはならないのです。
「自分がいなくなっても、この人に安心して暮らしてほしい」
「病気のときも、生活が苦しいときも、支えてくれたこの人に恩返しがしたい」
そんな優しさがあればこそ、遺言書でしっかりと意思をのこしておくことが大切です。
遺言書があることで、内縁のパートナーもあなたの想いを受け取り、安心して次の人生を歩んでいくことができるのです。
「今はまだ元気だから」と思う方へ
「遺言なんて、自分にはまだ早い」
「子どもたちは仲が良いから、問題ないと思う」
そう感じていても、いつかはそのときが来ます。
そして、元気なうちだからこそ、心を込めて、自分の意思を言葉にすることができるのです。
遺言書とは、未来への「やさしい準備」です。
あなたの人生を大切に思っているからこそ、後悔のないように、今できることから始めてみてはいかがでしょうか。
最後に 〜想いを形にするための第一歩〜
遺言書をのこすことは、財産のためだけではありません。
それは、「これまでの人生へのけじめ」であり、「大切な人への愛情」であり、「未来への橋渡し」でもあります。
- 家族が揉めないように
- ありがとうを伝えたいから
- 少しでも誰かの役に立てるように
そのどれもが立派な理由です。
もし、「自分にはどんな方法が合っているのか」「正式な遺言書はどうやって作るのか」といった疑問があれば、司法書士や行政書士、弁護士などの専門家に相談してみるのも良いでしょう。
大切なのは、“あなたらしい形”で、“あなたの想い”を未来へ託すこと。
遺言書は、あなたが残す人生最後のラブレターになるかもしれません。


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