終活を考えると、相続や遺言のことは避けて通れません。
なかでも遺言書をのこすかのこさないかは終活の中でも大きな位置を占めるはず。
なぜなら、遺言書は「ご自身の思いを託すツール」。
あなたが亡くなった後でも、大切な方にご自身の思いを伝えることができるものだからです。
だからといって、感情の赴くまま書いてよいわけではありません。
遺言書は、法律で定められルールに則って作成されなければなりません。
もし、法律で定められたルールに則って作成されなければ、その遺言書は無効となるおそれが生じます。
無効となれば、遺言書に書かれた内容、すなわち遺言が実現できなくなります。
また、いくら遺言書がご自身の思いを託すツールだといっても、感情の赴くままにのこされてしまっては、ご家族の争いごとの要因になるおそれがあります。
ご家族のことを思ってのこしたはずの遺言書が、ご家族の争いごとのもとになってしまっては悲しいですですよね?
この記事は、あなたが遺言書をご自身で作成することを想定してまとめられました。
つまり、この記事の内容は自筆証書遺言(または秘密証書遺言)でのもの、ということです。
※自筆証書遺言(または秘密証書遺言)がどんなものなのかもこの記事をご参照ください。
この記事では、遺言が無効となってしまう主な原因、どうして遺言書がご家族の争いごとのもとになってしまうのかをご説明しています。
本記事では次のことを述べています。
- 自筆証書遺が言書としての守らなければならない形式
- 遺言書全部が、あるいは一部が無効となる原因
- 遺言書が無効とならないための作法
- 遺言書が争いごとの要因となる理由
こんな方に本記事はおすすめです。
遺言書(=あなたの思い)を無駄にしないために

遺言書が無駄になるとは、遺言書の全部あるいは一部が無効になってしまうことです。
無効になるということは、遺言の内容が効力を生じないということです。
「効力を生じない」とはどういうことかと申せば、遺言の内容が実現しないということです。
たとえば、お子さまに先祖代々の土地を譲りたいと思い、遺言書に、その旨をのこしたとします。
遺言書が有効であれば、遺言書に書かれた通りの効力が生じるでしょう。
つまり、「お子さまに土地を譲りたい」という思いを遺言書が証明してくれる、ということです。
※「土地の所有権が移る」ということ
「土地の所有権が移る」登記は、一般的に所有権移転登記と呼ばれます。
一方、相続がもととなる所有権の移転は、所有権の名義変更(この場合は「相続登記」)となります。
名義変更を法務局に申請する際に、遺言書を提出することで名義変更の根拠を示します。
つまり、遺言書を根拠に所有権の移転が可能になった=遺言書の内容が実現したといえます。
しかし、遺言書が無効になれば、その土地をお子さまに譲ることができなくなってしまいます。
言い換えれば、遺言書に書かれたあなたの思いが無効となってしまうのです。
遺言書は、「ご自身の思いを託すツール」です。
遺言書が無効になれば、あなたの思いが無駄になってしまいます。
遺言書(=あなたの思い)を無駄にすることなく、あなたの大切なご家族にのこしたいと思われませんか?
あなたの思いが無効にならないために。
できることを、ひとつひとつご説明していきますのでご参考ください。
遺言書が無効とされる原因には5つある
まず遺言書が無効とされる原因を把握しておきましょう。
無効とされる原因は大きく5つあります。
遺言する能力(=遺言能力)がない
遺言には、遺言能力が必要とされます。
遺言能力とは、
「遺言の内容を理解し、遺言が自分の死後、どのような結果をもたらすのかを理解できる能力」です。
この遺言能力がないと、せっかく作成した遺言書が無効となります。
遺言能力の有無は、遺言書を作成した者(=遺言者)の状態・状況によって判断されます。
遺言者の状態・状況とは
年齢や心身の状況、健康状態、言動、日頃の遺言についての意向、遺言者と受遺者の関係、以前に遺言をしたか否か、以前の遺言書を変更する動機等を指します。
遺言能力の有無は、様々な要素を総合的に考慮して判断されます。
つまり、認知症であることのみを理由に遺言能力がないと判断されないということです。
法律の定めるルールに則って作成されていない
ご家族への思いを託した遺言書。
そんな遺言書は、法律で定めるルールに則って作成されなければなりません。
法律で定めるルールとはいったいどんなものなのでしょうか?
遺言にはいくつかの方式があります。
代表的なものに、「自筆証書遺言」、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」があります。
これらの内、自筆証書遺言、秘密証書遺言はご自身で作成するものです。
要するに、法律の定めるルールに則らずに作成してしまうおそれがあるのは、自立証書遺言、秘密証書遺言となります。
では、自立証書遺言、秘密証書遺言が守らなければならないルールとはどういったものでしょうか?
そのルールには2種類あります。
形式的なものと、内容に関してのものです。
形式的なルール
自筆証書遺言と秘密証書遺言は、双方ともご自身で作成できる遺言です。
しかし、要求される形式的なルールが微妙に異なる点に、注意しましょう。
| 自筆証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
| 書き方 | 全文手書きでなけれならない | パソコンによる出力可 本人以外のものが代筆可 |
| 作成年月日、署名 | 作成した年月日の記入 遺言者本人の署名 | 公証役場での手続きの日 遺言者本人と証人の署名 |
| 押印 | 認印でも可 | 認印でも可 |
| 内容の変更・追加方法 | ・誤った記載に二重線 ・訂正した箇所に押印 ・適宜の場所に変更場所の指示、変更した旨、署名 | 再度、初めから作成する |
▶自筆証書遺言の書き方をご紹介しています。
内容に関してのルール
基本、遺言の内容は、遺言者の自由とされています。
ただし、実際に法的な効力が生じるものが定められています。
つまり、遺言の内容は自由だが実現できる遺言は限られているということです。
なぜなら、遺言書は内容を実現できる法的な効力を生じる文書だからです。
法的な効力が生じる遺言には、次のようなものがあります。
実現できる遺言は限定的であることに注意が必要です。
実現できる遺言だとしても、表現が曖昧だと、その部分だけが無効となってしまうおそれがあることにも留意してください(遺言書の内容の一部無効)
遺言の内容が曖昧
遺言書は「ご自身の思いを託すツール」ですが、
いくら思いが託されても、託し方しだいで無効となってしまうおそれがあります。
遺言を無効としないためには「法律で定めるルールに則る」ことをご説明しましたが、この他にもうひとつ「遺言の内容を明確に」しなければなりません。
どういうことかと申しますと、遺言書はご遺族がわからない書き方をしてはいけないということです。
言い換えると、遺言書は内容を曖昧にせず、どの財産をどう分配するのかが明らかな書き方をしましょうということです。
たとえば「A町の土地を長男に任せる」「引き出しにある通帳は以前交際していたBに委ねる」という書き方。
これらが、曖昧な書き方の例といえるでしょう。
「A町の土地を長男に任せる」という書き方だと、A町の土地が複数あったとき、ご遺族はそれがどの土地を指すのか分かりません。「任せる」という表現も曖昧です。
また、「長男に任せる」とありますが、長男に所有権を譲るという意味なのか、長男の判断のもとに土地を売却してよいのか、売却して得られたお金を長男が仕切って分けろという意味なのか、判断がつきません。
※「任せる」という表現は、どのようにもとれますので避けたほうがよい表現とされます。
同様に「引き出しにある通帳は以前交際していたBに委ねる」という書き方も曖昧です。
まず、引き出しがどの引き出しのことなのかが分かりませんし、もし同じ引き出しに複数の通帳があったらどうなるのでしょうか。
仮に通帳が特定できたとしても、こういった遺言では、まず銀行が払い戻しに応じることはないでしょう。
書き方が曖昧だからです。
「委ねる」という表現からは、遺言者がBにどうしてほしいのかが見えてきません。
通帳にある預金口座をBの好きなようにして使って良いという意味なのか、それともBによる清算行為のみを期待しているのか。
こうしてみてくると、遺言の内容を明確にする意味がお分かりになられると存じます。
変造・偽造の痕跡がみられる
遺言書に変造・偽造の痕跡がみられれば、その遺言書は無効となります。
なぜなら、遺言者の思いが遺言者以外の誰かによって変じられたと見られるからです。
相続において、遺言者の意思は重視されるものです。
したがって、ある者に全財産を譲る内容だとしても、(遺留分の請求は別にして)他の相続人は反論できません。
それが、もし、自分だけが得をしたいと思った者の書き換えにより生じた結果だとしたら、どうでしょう。
これほど遺言者の思いをないがしろにするものはないのではないでしょうか。
ゆえに、変造・偽造の痕跡があれば、その遺言書は無効となるのです。
詐欺や強制によって作成されたおそれがある
遺言書は遺言者の思いを表明するものです。
それが、もし、詐欺や強制によって作成されたものであるとしたらどうしょうか。
変造・偽造と同様、詐欺や強制によって作成された遺言書は遺言者の思いをないがしろにするものです。
ゆえに、詐欺や強制によって作成されたおそれのある遺言書は無効となります。
遺言書を無効としないためには
これまで遺言書が無効となる原因をご説明してきました。
ここからは遺言書が無効とならないための方法をご説明します。
遺言書が無効とならないための方法、それはすなわち無効となる原因を避ければよいのです。
まとめると、次のようになります。
遺言書はあなたが元気な内に!
遺言書を無効としないための方法のひとつである、遺言能力の有無は、遺言書作成時に判断されます。
あなたはMさんとRさん、どちらに共感されますか?

じゃあ、”いま”遺言書を書いてもムダだね。
だって、遺言能力の有無は将来、判断されるのでしょ?

将来のことなんて分からないわ。
それなら、”いま”の内に書いておいたほうが良さそうね。
遺言は、あなたの思いを大切な方に伝えるためのものです。
もし遺言が「有効となるか無効となるか分かりません。もしかしたら無効になるかも」という代物だとしたら、自分の思い(それも最後の!)を託したいと思いますか?
そんな不安定なものに、自分の思いを託したくないと思われる方が大半だと思います。
では、遺言が無効になる原因とは何でしょうか?
遺言能力がない、法律で定めるルールに則って作成されていない、遺言者以外の誰かによって変造・偽造されたというものでした。
これらは、判断能力が健全な内であれば、まず生じないといえる原因ばかりです。
判断能力が健全であれば遺言能力がないと判断されることはないでしょう。
法律で定めるルールに則って作成することも、遺言者以外の誰かによって変造・偽造されないよう保管することも、判断能力が健全であれば、問題なく対応できるはずです。
要は、遺言書の作成を検討されているのなら、Rさんのようにあなたが元気な”いま”の内に遺言書を作成するのがベストなのです。
具体的には、あなたが終活をするタイミング。
終活を思い立ったそのタイミングで作成するのが、ベストタイミングなのではないでしょうか。
遺言書の変造・偽造を防ぐ、詐欺や強制によって作成されるおそれを防ぐには
自筆証書遺言の場合には🔗自筆証書遺言書保管制度を検討してみてはいかがでしょうか。
遺言書が争いごとの原因になる?
最後に、遺言書が争いごとの原因となる理由をご紹介しておきます。

遺言書が争いごとの原因?
どうしてかしら?
「財産をめぐって家族を争わせたくないなら遺言書を作っておいたほうがよい」と聞いたことがあるのに。
Rさんは「遺言書が争いごとの原因になる」と聞いて、不安に思われたようです。
大半の方は、「自分の財産がもとで家族を争わせたくないから」遺言書の作成を検討されているのではないでしょうか。
ではなぜ、家族を争わせたくないための遺言書が、争いごとの原因となってしまうのでしょうか。
再三申し上げているように、遺言書は「あなたの思いを託すツール」です。
では、もしこの思いが無効とされたらどうなるのでしょうか?
無効とされても、もう一度書き直せばよいのでは?と思われる方もおられるかもしれません。
しかし、実務上、遺言書が有効か無効か判明するのは、相続開始後のこと。
当然、遺言者はお亡くなりになっているので、書き直しができないのです。
遺言書は無効でしだといわれても、遺言者にはどうしようもありません。
では遺言書が無効とされた場合、遺産はどのように扱われるのでしょうか?
遺言書が無効とされると、遺産の分配を決定するために相続人による話し合い(=遺産分割協議)が行われます。
遺産分割協議が整うには相続人全員の合意が求められます。
実は、この相続人全員の合意がやっかいなのです。
相続人全員が被相続人の近くにお住まいで、日頃からコミュニケーションがとれているというのなら、合意も得られやすいのでしょう。
しかし、お互いが遠方に住んでいて、お互いに疎遠であるならば?
お互いの利害関係の絡む話し合いの場は、どういったものになるのでしょうか。
また、相続人は関係の近しいパートナーやお子さまだけではありません。
相続人が親御様となるご家庭もありますし、ご兄弟さまが、あるいは甥姪さまがなるご家庭もあります。
相続人が国内にお住まいならまだしも、海外にお住まいされていたら?
相続人の所在が分からなければどうなるのでしょう。
相続人全員の合意が求められるいうことは、海外にお住まいの者、所在の分からない者の合意も必要だということです。
親御様が高齢で判断能力が衰えているなら、お子さまが未成年なら後見人等の就任も必要となるでしょう。
遺産分割協議が整わなければ、家庭裁判所の調停や審判の手続きを検討しなければなりません。
遺言書が無効となった場合に費やさなければならないお手間やお時間。
これらが、相続人にとって大きな負担となることは想像に難くないのではないでしょうか。
遺産分割協議で自分が思うような結果が得られれば良いのでしょうが、もしそうならなかったとしたら…。
遺言書が争いごとの原因になるとは、遺言書の無効が招きかねない結果です。
大切なご家族のために、との思いを伝えたいと願うなら、遺言書が無効とならないよう作成しなければなりません。
遺言書が無効とならないための方法は、この記事でまとめました。
ぜひこの記事を参考に、あなたの思いが無駄とならない遺言書を作成して頂ければと存じます。
まとめ

この記事では、遺言書を無効としないための方法をまとめました。
遺言書とは「あなたの思いを託すツール」。
遺言書が無効となれば、あなたの思いも無駄になってしまいます。
託した思いが無駄になるのは、悲しいこと。
でも、託した思いが無効とならないための方法があるとしたら、いかがでしょうか。
まずは遺言書が無効とされる原因をみてましょう。
この記事では、遺言書を作成する能力である遺言能力や、法律の定めるルールに触れました。
※遺言能力や法律の定めるルールについてより詳しくお知りになりたい方は、こちらをご参照ください。
遺言書を無駄にしないためには、無効になる原因を避けたほうがよろしいでしょう。
遺言書が無効とされると、託した思いが無駄になってしまうだけでなく、ご家族やご遺族の争いごとの原因となるおそれがあります。
大切なご家族やご遺族を”争族”としないためにも、是非この記事を参考にし有効な遺言書をのこしていただきたいと存じます。


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